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徳島地方裁判所 昭和45年(行ク)1号 決定 1970年6月02日

申立人

大田正

被申立人

徳島東警察署長

代理人

片山邦彦

ほか四名

申立人は、昭和四五年六月一日、当裁判所に対し、

被申立人を被告として許可の条件一部取消の訴え(昭和四五年(行ウ)第二号)を提起し、

あわせて処分の効力の停止を求めて本申立に及んだので、当裁判所は被申立人の意見を聞いたうえ、

次のとおり決定する。

主文

申立人の昭和四五年五月二九日付被申立人に対する「専売不当処分粉砕、超合理化粉粋、六月安保決戦勝利のためのデモ行進を目的とする道路使用許可申請に対し、被申立人が同年同月三〇日付でした許可に付した条件のうち、「吉野橋西詰から南田宮一丁目志内石油店前までの間は二列縦隊とすること」との条件の効力を停止する。

申立費用は被申立人の負担とする。

理由

一申立人の申立の趣旨及び理由は別紙一(申立人の本件申立書及び補足資料)のとおりであり、被申立人の意見は別紙二(被申立人の意見書及び補充意見書)のとおりである。

二(1) 本件申立と疎明によれば、申立人ら約一五〇名は主文掲記の件を目的とする徳島県反戦青年委員会主催にかかる集団示威行進のため昭和四五年六月二日午前七時から午前一〇時までの間徳島市内の徳島大学と日本専売公社徳島工場との間の道路使用をなすべく(そのコースは別紙三の図面のとおり)、申立人名義をもつて昭和四五年五月二九日被申立人に対しその許可申請をしたところ、被申立人は同年同月三〇日これを許可するとともに別紙四のとおりの条件を付したことが疎明せられる。

右事実関係によれば、本件執行停止の申立は処分により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるものと認められる、被申立人は、主文掲記の区間(本件区間)につき本件許可条件に従つて二列縦隊による行進を行つた場合でも、その目的達成につき何ら格別の支障は認められないから、本件許可条件の効力停止の緊急必要性はない旨主張するけれども、右主張はひつきよう本件許可に附された条件自体の相当性を言うに帰着するから主張自体失当である。

(2) よつて、本件許可条件の当否につき按ずるに、被申立人の疎明によれば、本件区間は徳島市北部に位置する歩車道の区別のない巾員約五米、距離約五〇〇米の道路であり、道路沿いには店(書籍商、青果物商等)、事業所等も存することが窺われるところ、いま右区間を申立人らが三列縦隊(別紙(1)本文の原則的条件)で行進すれば、他の許可条件を遵守する限り、該道路の占用状況はその右側約二米巾を六七分間にわたり通過使用する程度のものであることが経験上明らかでありこれを、被申立人も容認する二列縦隊に比し通行の形態及び方法において一般交通により甚大な影響があるとはにわかに考え難い(道交法§77Ⅰ一ないし三号の使用方法参照)。

被申立人は、申立人らの過去の行動経歴に言及し、許可条件違反のおそれがある点を指摘するけれども、本件条件の当否については未だ右の点を考慮するを適切としない。

また、被申立人は右区間が徳島市の西部及び北部から渭北方面に通ずる唯一の道路である点、近辺に学校、工場等が多数あり、申立人らの行進時刻頃は通勤通学で車両等が充満する点等を本件条件を付した理由として主張するが、前記事実関係によれば、右の点といえども未だ二列縦隊を可とし、三列縦隊を不可とする事由と認めることはできない。

そうすると本件区間に限り三列縦隊をあらため、二列縦隊となるべき旨定めた本件許可条件(別紙(1)の但書部分)は道路交通安全上必要なものとは認め難い。

しかして、右許可条件を不当としてその執行を停止するも公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれも認め難い。

(なお、申立人は、被申立人が表現の自由を侵害し、不当な弾圧をなすかの如く云々するけれども本件条件につき、そのような意向を看取できないことはもちろん、被申立人が所轄道路の使用の許否を決し、また許可条件を付するのは、専ら道交法に基き、道路の交通の安全円滑を期するためにほかならないから、右の如き一般論はにわかに首肯することはできない。)

三よつて、本件許可条件の効力の停止を求める本件申立を正当として認容し(従つて、本件区間も他の条件を遵守する限り三列縦隊は可)、申立費用の負担につき、民事訴訟法八九条を準用して主文のとおり決定する。(畑郁夫 葛原忠知 岩谷憲一)

別紙一

申立の趣旨

相手方が昭和45年5月30日付の徳島県反戦青年委員会主催の専売田宮工場前までのデモ行進の申請に対してなした許可条件の一部(1の(1)「ただし、吉野橋西詰から南田宮一丁目志内石油店前迄の間は二列縦隊とすること」)の効力は、本案判決があるまでこれを停止する。

との御裁判を求める。

申立の理由

一、三列縦隊を二列縦隊にされたのは、交通事情によるものと思われるが、早朝であるから、交通に重大な支障があるとは思われない。

二、三列縦隊を二列縦隊にされることにより、デモ行進の効果が著しくうすれ、表現の自由が不当に奪われる。

三、これ以降、既成事実とされ、デモ行進の権利を警察権力により不当に奪われる口実をつくる恐れがある。

四、デモ行進は憲法によつて保障された表現の自由の権利の行使であり、交通事情等の理由で、これを不当に制限することは許されない。

警察は国民の権利を守り、交通の混乱や停滞を防ぐよう全力を尽すべきである。

本案判決があるまでその効力を停止しなければ、デモ行進が不当に弾圧されることになるので本申立に及んだ次第である。

申立理由(一)の補足資料

(過去の類似の状況下におけるデモ行進の例)

一、過去数回にわたつて田宮街道とほぼ同じ幅の道を三列縦隊でデモ行進した。

・徳島市役所前―郵便局裏―両国橋通り

・全国一般会館―消防署前(四月二八日の沖繩デーデモ資料参照)

一、昨年八月県労評主催全港湾本土連絡運輸分会処分粉砕デモを徳島西署に申請した際、田宮街道の田宮―城北高校前の間は二列縦隊と許可条件を付されていたが、実際は三列で行い、その結果交通の渋滞はなかつた事実がある。

一、六月二日当日は、田宮街道を七時三十分頃通過する予定であり、ラッシュ時以前となるため交通に重大な支障があるとは思われない。

一、当日のデモには女性も多数参加するが、当日は日教組大会の抗議に徳島に来ている右翼団体の妨害も予想されるため三列縦隊で中に女性を入れ両側を男性が包む形のデモ行進を予定している。そのため、二列縦隊のデモではどちらかの側に女性がつくため危険である。

別紙二

意見書

意見の趣旨

本件申請を却下する。

申請費用は申立人の負担とする。

理由

一、徳島東警察署長が、申立人のデモ行進に対して、条件を付して許可したのは、次のような道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図るための、やむを得ない措置であつて、適法かつ妥当な措置であり、何ら違法でない。

吉野橋西詰から南田宮一丁目志内石油店前までの間の道路は、約五メートルの歩車道の区別のない道路である。その道路の午前七時ごろから八時ごろにかけての交通事情は当該道路が徳島市の西部及び北部から渭北方面に通ずる唯一の道路であり、ために車両と歩行者であふれる状態にある。

即ち、当該道路の東側には、徳島商業高校、城東高校、徳島中学、徳島大学附属中学、徳島大学・教養部・工学部教育学部があり、当該道路の西側には徳島工業高校、徳島城北高校、徳島農業高校、徳大医学部、同薬学部があり、これらの学校へ通学する多数の学生、生徒はオートバイ、自転車、歩行により、この道路を利用している。また当該道路の西の方、田宮町、不動町、中島田町方面の住宅街から市内中央部への通勤者が多数あり、また当該道路の西側には専売田宮工場、アルス製作所、八興被服、八興繊維、志摩製糸、本土連絡運輸日本資糧等の事務所があり、そこへ当該道路の東方面から多数の通勤者がこの道路を利用して通勤している。このような車両と歩行者で充満している道路へ反戦青年委員会主催による百五十名の者が三列縦隊でデモ行進をすると約二メートル巾にわたつて道路を独占的に通行するためどのような不測の事態が発生するやも知れないので、それを防止するため止むなく二列縦隊で行進するよう条件を付したものである。(道路交通法第七七条第一項、第三項)

二、申立人には回復の困難な損害を避けるため緊急の必要性がない。

申立人のデモ行進は三列縦隊で行なわれようと、二列縦隊で行なわれようとデモ行進自体は許可されているのであるから言論、思想の表現効果のうえからみて特段の差異があるとは考えられない。したがつて、三列縦隊を、二列縦隊にするという制限が付されてもいまだ回復の困難な損害があるとは考えられない。

補充意見書

一、徳島県反戦青年委員会は疎乙第五、六号証に見られるように、従前しばしば違法なじぐざぐデモ行進を行い附近の交通を著しく妨害してきたものである。主催団体のこのような危険な傾向をも考慮に入れるとき、本件の道路部分において、三列縦隊でデモ行進を許可することは、道路交通の安全と円滑を図るうえから到底認められないところである。

したがつて、本件のように二列縦隊で行進を行なうように条件を附したことは適法であり、本案請求が理由がないことが明らかな場合であるので却下を免れない。

二、二列縦隊で行進するように条件を附した部分は行進の全行程約六キロメートルのうち、僅か約五〇〇メートルの距離に過ぎず、その余の部分は申立人の申請どおり三列縦隊で行進することが認められている。

このような観点からみても、三列縦隊を二列縦隊にするという制限が附されても、言論思想の表現効果のうえに特段の差異があるとは到底考えられない。

(別紙四)

一、許可の条件

(1) 行進隊形は三列縦隊とすること、ただし吉野橋西詰から南田宮一丁目志内石油店前迄の間は二列縦隊とすること。

(2) 蛇行進、うず巻行進、ことさらなかけ足又はおそ足行進先行てい団との併進、先行てい団の追越しおよびいわゆるフランスデモ等交通秩序を乱すおそれがある行為をしないこと。

(3) 旗ざを等を利用して隊伍を組み又はプラカード旗等をことさらにふる等一般交通に危害を及ぼすおそれがある行為をしないこと。

(4) コースの中吉野橋は自転車専用路を通行のこと、助任橋二丁目新光電気店前で左折し徳島大学教養部前迄の間は道路左側端を通行のこと。

二、注意事項

(1) 主催者は参加者に対して前記条件を周知徹底させて交通秩序を維持し現場責任者及びその補助者は役職を明示した腕章等の標識をつけ責任の区分を明らかにすること。

(2) 上記許可条件(4)以外は現場で警察官の指示がない限り、歩車道の区別の有無にかかわらず車道の右側端を通行のこと。

(3) 警察官の手信号、指示及び信号機の灯火に注意してこれに従うこと。

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